“天性のファイター”神童・那須川天心、脅威の格闘センス「寝技がとっさに出た」

年末12月29日に開催された「RIZIN」でMMAデビュー戦で、ウクライナの新鋭ニキータ・サプンに勝利した那須川天心。しかも12月31日、僅か中1日で大晦日のリングにもあがり、リザーブのファイター、カウイカ・オリージョも37秒で秒殺という鮮烈な2連勝を見せた。当初は「年末の格闘イベントの余興」程度に思われていた、神童の総合格闘技挑戦だが、そこからすけて見えて来たのは、旺盛すぎる天性のファイターとしてのポテンシャルの高さだった。


18歳「キック界の神童」とメディアも注目しはじめた那須川のMMAデビュー。MMA未経験しかも12月上旬にキックイベント「KNOCK OUT」の旗揚げ試合で、ルンピニー・スタジアム現役スーパーフライ級王者、ワンチャローン・PK・センチャイムエタイジムとの壮絶な試合をしたばかりというタイトなスケジュールの中、無謀ともいえる「RIZIN強行参戦」には賛否の声があがっていたのも事実だ。キックの世界で17戦負け無しとはいえ、正直なところこのマッチメイクが時期尚早と感じる人は大勢いたはずだ。


ワンチャローン・PKセンチャイジムVS那須川天心 2016.12.5KNOCK OUT


対戦相手のニキータ・サプンがプロ2戦目の経験の浅い選手だとしても、寝技に持ち込まれたときには「さすがの那須川も歯が立たないのでは?」という大方の見方も、蓋を開けたら良い意味で裏切られた。実際寝技に持ち込まれながらも、驚異的な回避能力と予想外の引き出しの多さには唖然とするしかなかったのが正直なところだ。


まずはMMAデビュー戦となったサプン戦を振りかえってみよう。


試合序盤は、テコンドー欧州王者の肩書きのあるサプンの変速的な蹴りに対し那須川のローという攻防、スピンキックなどは、悠々とかわし的確に強烈な左ローを3発叩き込むとひるんだサプンが足をかばいはじめる。

状況打開を試みたサプンのサイドキックが外れ、倒れ込んだところに那須川の上から振り落とすパウンド、相手も必死でガードするが、鈍い音からその打撃の強さは十分に感じられる。ここで一度目の危機的場面。サプンが右腕を取ろうとするがするりと抜け回避。

ここで驚きだったのは、那須川がスタンドでの攻防を選択せずにマウントでのパウンドでの攻撃を選んだことだ。プロ経験が少ないとはいえサプンに一日の長がある寝技での攻防に臆すること無く挑み、ボディへ打撃を叩き込む、実に大胆だ。

ただこの場面で経験のなさから二度目の危機が訪れる。サプンが寝ながら首を固めると見せかけ、再び右腕を固めアームバー、那須川の腕は一度伸びたが、回転して脱出、しかし腕は伸びたままだ。完全に伸びきるとここでタップアウトだが、幸運にもサプンの掴んだ手が緩かった。ここは相手も熟練した寝技のスペシャリストではない部分が幸いした。

しかしまだピンチが続く、上に乗られマウントポジションでサプンのパウンドを浴びる那須川だが、回転しながら亀のような形から立ち上がる形でエスケイプに成功。

寝ているサプンに強烈な足への蹴り、嫌がる相手に上からの速いパウンドから裏拳での打撃の嵐で相手を執拗に殴り、ここでレフリーがストップをかけた。


これでも十分すぎるMMAデビュー戦だったが、本人の志願で実現した31日のカウイカ・オリージョ戦で那須川は「驚きの進化」を見せた。2日前の試合で決められた右腕には痛々しいテーピングの跡がみられるが、ゴングがなると前蹴りで仕掛けるオリージョを強烈なワンツーで倒すと、中腰での首相撲からスピニングチョークで締め上げるアームトライアングルチョークで37秒瞬殺。


2016.12.31 第1試合:那須川天心 vs カウイカ・オリージョ【RIZIN】

ダウンを奪うシーンは特に興味深い、右の前蹴りに合わせるように、左右のフック、これが高速で相手の頭部を捉えている、この時点でオリージョのダメージは相当なものだったと思えるが倒れる相手に追い打ちで膝を叩き込み、これを嫌って片足タックルを試みるとフロントチョークといった、那須川の先を読む力からは類稀な格闘センスが感じられる。


対戦相手のクオリティも含め、この2戦で那須川が「MMAファイターとして頭角を現した」と熱を込めて断言するまだ躊躇はあるが、数週間のトレーニングでここまで「MMAの形」をリング上で体現したことには驚きしかない。試合後のインタビューで「とっさに出た」と発言した寝技はどこから来たのか?このことに関してはもはや那須川が「ナチュラル・ボーン・ファイター」であるというしか説明がつかないかもしれない。


すでに「キックとMMAの2刀流」といった言葉も周囲から出て来ているが、試合後の発言はあくまでも冷静だ。特に那須川が持ちかけた「RIZINにキック部門をつくって欲しい」という発言は、団体の壁を超え最強を目指す「RIZIN」にとって、さらには日本の格闘技界にとっては、これ以上にない未来志向の提案といえるだろう。


 なんとなく見切り発車で決定してしまった「キックの神童」のMMA進出だが、意外にも「那須川はMMAで戦う素質がある」という我々が数年後に当然持つであろう疑問にたった2日間で答えたのは今回の「RIZIN」の興行の中でも最も大きい収穫の1つだ。


今のMMAのトレンドではボクシングやキックにも長け、レスリングや柔術もできるというトータルなファイターが求められている。キック一筋出来た彼が18歳という若さで総合格闘技に触れたという事実は色々な今後重要な意味を持ってくるに違いない。色々な期待をあげるとキリがないが、いずれにしても那須川天心というファイターの未来が希望に溢れていることだけは確かである。

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