「最近の格闘技界は、日本の地位が下がっている」伝説の格闘家・中井祐樹は、世界の格闘技の潮流をどう読むか

2000年代前半から中盤にかけ、桜庭和志、吉田秀彦、五味隆典といった日本人格闘家が世界の競合と互角に渡り合っていた。今でも青木真也ら世界レベルの選手と相対する選手は存在するものの、「世界との距離が遠くなった」と語るのは、柔術家でパラエストラ東京代表の中井祐樹氏(46)だ。同氏は日本の総合格闘技の幕開けともいえるイベント・VALE TUDO JAPAN OPEN 1995では優勝候補の一角とも目されていたジェラルド・ゴルドーを1回戦で破り、2回戦でもクレイグ・ピットマンを破り、決勝戦でヒクソン・グレイシーと闘い準優勝した。中井氏は世界の格闘技の潮流をどう読むか――。

最近の格闘技の世界では、日本の地位が下がっています。いや、世界の上がり方が激しいといえましょうか。とにかく競争が激化し、勝つのが年々困難になってきています。今や、柔術も含めて盛んになってきて、世界中のどこの大会の映像もYouTubeなどで見ることができます。だから勉強し続けなくてはいけないのです。さらに、できるだけ現場に行き新しい技術などを学ばなくてはいけません。必要とあらば、海外の優れたスクールで日本人の選手が学ぶのもアリでしょう。


総合格闘技や柔術で日本が世界から遅れているのは、層の薄さにあると思います。それとこの「層」ってものは、将来性が影響するんですよ……。つまり、その競技をやることによって将来メシを食っていけるか、ということです。日本は柔道と剣道では強いですよね。柔道の場合は、最終的には先生になれたり、警察官になれたり、と将来の見通しが立てられます。だから人材が集まるのです。その一方、総合格闘技は違います。たとえば、アマチュアとしてレスリングをやっていた選手がプロの総合格闘技に転身したとしても、食っていける人がチャンピオンクラスだけという現状があります。総合格闘技というものは、将来的にしっかりやっていけるものではないってことになっているんです。大金をつかめるのは、ほんの一部の圧倒的強者だけです。そうした存在に皆がなれるわけないですし、将来の見通しも立たないため、柔道と同じようにはならないのです。


もちろん、欧米やブラジルも強い選手だけが大金を手にできる点は同じです。しかし、アメリカもブラジルも日常的に格闘技が盛んなので、とにかく格闘技人口が多い。たとえば、日本では1つの道場に200人通っているとしたら、アメリカやブラジルでは2000人通っていたりするわけです。施設の大きさも違うし、「格闘技好き」の気持ちが全然違うのです。ファンも多いだけに、より多くのお金がその市場に対して支払われる。職業として魅力的であればあるほど人口は増えていくものです。


私の念頭にあるのは、格闘技をやりたい人の生活を成り立たせ、その人の夢をかなえる手伝いをすることです。だからこそ、トップ選手を生み出したいと考えています。ただし、強い選手と初心者に対する扱いは変えません。パラエストラ東京は「一緒にできるジム」だと思っています。出稽古も受け入れますし、3000円の体験入門も受け入れています。どんな人でも受けますし、重複入門も構いません。私は道場の門戸を叩く人を拒否する気はまったくありません。向こうがよければOKなんです、先方がダメといったらダメ。


とにかく道場生は、自分のやりたいことをやればいい。以前、光が丘(東京都練馬区)の公園で行われたモンゴル関連のイベントではモンゴル相撲のトーナメントがありましたが、そこにウチの道場生も出場しました。別に相撲の練習をしてもいいし、キックの大会に出ていい。パラエストラの道場生は、すべての格闘技に出ている唯一の団体ですよ。でも、ウチしかそういった道場がないのはおかしいと思っています。柔術だけ、キックだけ、とか決めないでもいいわけです。総合格闘家になりたいのであれば、何をやっても、総合格闘技のためになるものです。子供の道場生は「わんぱく相撲」にも出ますが、これも当たり前だと思っています。


私は柔道愛好者であり、柔術の指導者であり、総合格闘技選手であり、って話です。なんでも自分にとってはやってもいい範囲なんです。ただし、打撃専門のことはやったことはないので、私は打撃は初心者です。でも、いずれ打撃を練習してもいいんです。総合格闘技というのは、そういう楽しみ方ができる競技なのです。何を取り入れても総合格闘技のためになっていくものなんですよね。格闘技が強くなってもサッカーがうまくなるとはいえないですが、サッカーが上手になれば格闘技のためになります。だって、フェイントのやり方を覚えたり、常に走り回ることによる足腰の強化など、すべて総合格闘技に活かすことができるようになりますから。


道場生が「オレは寝技が好きじゃない」と言ったら、「打撃やれよ」と言います。その方が本人にとってすごくいいことだと思いますからね。総合格闘技をやりたいのであれば、こうした考え方も必要ではないでしょうか。私は、総合とか柔術をやっている人の人生が、もっとよくなるようなやり方を提示したいな、と思っています。格闘技関連の情報は日々ツイート(https://twitter.com/yuki_nakai1970 @yuki_nakai1970)していますので、そちらも是非。

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