首の骨折から狂気の復活、チャンプへ!実在の伝説のボクサー、ビニー・パジェンサを描いた傑作映画『ビニー/信じる男』

『ビニー/信じる男』(7月21日公開)は、実在のボクサーであるビニー・パジェンサの実話を映画化した作品だ。実話だからネタバレにはならないだろう。彼は世界チャンピオンになりながら交通事故で首の骨を折るという重傷を負った。普通に考えれば再起不能だ。にもかかわらず、現役復帰どころか王座獲得まで果たしている。


その精神は不屈、というよりもはや狂気の域だろう。映画では、実際のビニーの試合や記者会見、首を厳重に固定した姿も出てくる。1962年生まれ、80年代から90年代にかけて活躍した選手だから、映像素材がふんだんにあるのだ。

ビニー自身、「俺の人生は映画になる」と考えていたのかもしれない。バイタリティの塊である彼は、公開に向けた国際電話インタビューで「映画のスタッフはボクシングに対しての理解度が高かったね。でもこの映画はボクシングというよりも俺自身の人生がテーマだよ」と語っている。「映画で描かれなかった部分? クレイジーすぎて映画にできなかった部分ならあるかな! それはまたの機会にな(笑)」とも。


とはいえ、映画で描かれるのはやはりボクサーとしてのビニーだ。本人も絶賛するマイルズ・テラーの熱演。監督のベン・ヤンガーは、PPV時代で巨大化していくボクシング・ビジネスと、その中でのボクサーの姿を巧みに描き出す。


格闘技ファン、ボクシングファンなら「おっ」と思う場面も多い。映画の冒頭、ビニーは公開計量に遅刻する。ホテルの部屋で体にサランラップを巻きながらエアロバイクを必死でこぎ、汗を絞り出しているのだ。


体重、階級はビニーのボクシング人生に大きく関わってくる。新たにトレーナーとなったケビン・ルーニーは、世界タイトル獲得のため階級を上げることを提案する。階級を上げれば、当然ながら相手は大きく、手強くなる。格闘技が好きなら、ビニー=テラーの驚いた表情がリアルに感じられるはずだ。


勝つための方法論が、いかにもドラマチックな「猛特訓」や「家族や恋人の支え」や、何かそうしたものからくる精神性ではないというのが『ビニー』の魅力と言ってもいい。首のケガからの復帰にしても、ありがちな「復帰を決意した瞬間」は描かれない。最初からそう決まっているかのように。「当然だろ、俺はボクサーなんだから」と言わんばかりだ。


そして忘れるわけにはいかないのが、この映画がケビン・ルーニーの「敗者復活戦」の物語でもあるということだ。マイク・タイソンに“クビを切られた”ルーニーが、ビニーとともに復活していく。しかも演じるのは名脇役アーロン・エッカートだ。当時のボクシング界を知る者ならずとも胸が熱くなる。

「アーロン・エッカートはケビンを超超最高に描いてくれた。まさにケビン・ルーニーだったよ、アーロンが演じてくれて本当によかった。俺はケビンが大好きだからね。彼は俺の親友だったんだ。トレーナーだったが、俺の相棒でもあった。ケビンから学んだことなんていっぱいあるさ」(ビニー)


映画をビニーとルーニーの物語にしたことからも、製作陣のボクシングに対する愛情と深い信頼がわかるというものだ。彼らの人生を下手にいじらなかったことで、この映画は普遍性を得たのではないか。


実際の出来事との変更点といえば、試合をする順番か。作中ではクライマックスの復帰戦でロベルト・デュランと闘うことになる。その結果、我々は映画の中で“石の拳”デュランの闘いもたっぷり見られるわけだが。


インタビューの最後に、今の格闘技界で最大の話題と言えるビッグマッチ、MMAファイターのコナー・マクレガーvsフロイド・メイウェザーの試合についてビニーに聞いてみた。「マクレガーは今ノッている男だしタフだけど、フロイドに勝てる奴はいないよ。誰一人としてね」


ちなみに映画には、ビニーとメイウェザーの叔父にあたるロジャー・メイウェザーとの試合も出てくる。ビニーはメイウェザーvsマクレガーを、マイルズ・テラーと見に行くそうだ。


文・橋本宗洋

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映画『ビニー/信じる男』は7月21日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて公開

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