「こんな引退試合やりたくねえ」大家健との炎の友情 優しすぎるレスラー・鈴木大が引退

(引退を発表した鈴木大(中央)と大家健(右)、高木三四郎)

11月13日、DDTが記者会見を行ない、系列団体DNA所属の鈴木大が引退することを発表した。会見には鈴木、高木三四郎社長、そして引退試合となる12月13日のDNA新木場1st RING大会で対戦する大家健(ガンバレ☆プロレス)が出席。


元探偵という異色の経歴を持ち、長期の沖縄修行を経験、またデビュー後も地方興行の住み込み営業など、鈴木は本流とは言い難いレスラー人生を送ってきた。しかし、だからこそファンの印象には残り、愛されるレスラーでもあった。「選手として独特の魅力があり、惜しいところではあります」とは高木社長のコメント。


引退の理由は、以前から携わってきた福祉の仕事(放課後等デイサービス)に専念するため。子供たちの支援に取り組む中で「このままではプロレスも福祉の仕事も中途半端になってしまう」と考え、高木社長とも相談して引退を決めたという。


引退試合での大家との対戦は、鈴木の希望によるもの。実は鈴木はデビュー前、ケガで入院していた際に、やはり入院中だった大家と知り合い、激励されていたという縁がある。大家は鈴木のラストマッチで相手を務めることについて、会見で涙ながらに語った。

(大家は自分の思いを訴えるうち、いつものように号泣……)

「両方続けられるなら続けてほしいけど、できねえっていうんならできねんだろうな! でも(試合まで)あと1カ月ある! 1カ月くらいはできるだろ! 1カ月寝るな! 寝ないで練習しろ! おまえはプロレスに救われたんだろ! ならプロレスに恥かかせんな! こんな引退試合やりたくねえけど、一生懸命準備してくるならやってやりますよ!」


デビュー前から知っているだけに、大家にとって鈴木は思い入れのある後輩なのだろう。それだけに充分な実績を残せないままでの引退が悔しくて仕方ない。大家は会見当日、ブログを更新し、入院中の出会いや、現在の鈴木への思いをあらためて綴っている。曰く、「40年生きてきて思うこと」は、「みんなに多少の迷惑をかけてでもやりたいことをやった方が幸せだ」。「自分が思ってるほどみんなお前のことは気にしてないよ。自分が思ってるほどみんなお前が迷惑をかけてるなんて思ってないよ」。


そして「試合だけ頑張るなら誰にでもできる。毎日地味に練習してるからプロレスラーになれる。引退試合は頑張ってほしい」と檄を飛ばした。


客観的に見れば、鈴木は実力が足りない、一人前とも言えないようなレスラーだったかもしれない。レスラーなのに「人を殴ったり蹴ったりするのが嫌い」という優しすぎる性格だ。体系もぽっちゃり型で、はっきり言えばナメられやすい。そんな鈴木を大家は歯がゆく思っていたし、心配してもいた。鈴木は今年、DNAで「試練の七番勝負」を課せられている。その内容はというと「七番勝負に全敗したら引退。1試合でも勝つか引き分けると引退撤回」というもの。しかも試合時間は7分一本勝負だった。


この時期のDNAは外部から演出家を招いた体制で開催されており、そのこともあってと思われる“お笑い企画”だ。これに「いくらなんでも鈴木をナメている。普通に勝負させればいいじゃないか!」、「鈴木、お前ナメられたままでいいのか!」と激怒したのが大家だった。


大家は鈴木の「応援団長」に名乗りをあげ、“炎の特訓”を課すなどバックアップ。また今年7月の鈴木の地元・栃木での凱旋興行はガンバレ☆プロレスで開催している。大家と鈴木の“絡み”には常に笑いがついて回ったが、その軸にあるエモーションが熱いものだったのは間違いない。


大家にしても、過去に失踪事件を起こすなど“ダメレスラー”として笑われてきたし、今でもやることなすことメチャクチャといえばメチャクチャである。しかしガンバレ☆プロレスを率いてひたすら頑張っていたら、新日本プロレス勢とのタッグマッチで勝利、後楽園ホール超満員、さらに最近では「ユーチューバー草なぎとの対戦でバズる」などのミラクルを起こしている。


鈴木は確実に“大家系”のレスラーだったが、ミラクルを起こす前にリングを去ることになりそうだ。12月13日、新木場のリングで観客の心に何を残せるか。それがレスラー人生最大にして最後のチャレンジとなる。


「もっとたくさんの人に、僕の好きなプロレスを知ってほしい。初めてプロレスを見る人にも、久しぶりに会う人にも、僕のことをバカにして見てた人にも、ただプロレスを好きになってくれたら嬉しいなって。僕がナメられててプロレスが広まらないなら、僕はもうナメられるのをやめます! これ以上ナメられないために、ごまかさずに頑張っていきます!」


これは栃木凱旋興行での鈴木の言葉だ。そう言った5カ月後に引退することになってしまったのだが、まだ機会は残されている。鈴木は会見で「僕にできるのは一生懸命頑張ることだけ」と言った。我々にできるのは、それを見届けることだけだ。

文・橋本宗洋

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