サイプレス上野、「地方でも体張って、泥水すすってきた選手にはシンパシー感じる」

幼い頃からの生粋のプロレスファンであるラッパー・サイプレス上野がプロレスを語る連載企画、その第2回では、プロレスとヒップホップに共通する「ブーム」について、サ上リリック最重要ワードの一つである「泥水」について語ってもらった。

(聞き手・橋本宗洋)


ーー今までも、TOJIN BATTLE ROYALのアルバムに参加した『CYPRESS EFX 我々の時代』も含めて、上野さんの曲にはコアなプロレスワードが出てきてますよね。「ムジナの穴」とか(笑)。


上野 1.4ドームでは自分の曲(大会オフィシャルテーマソング『GET READY』)が場内BGMで流れてて。若い、ロスインゴ(ロス・インゴベルナブレス)のTシャツ着てる子が「サ上! 俺これ全部歌える!」って言ってくれたのは嬉しかったっすね。中学生くらいの子が「写真撮ってください」とか。その子たちっていうのは「あの頃の俺」じゃないですか。プロレスファンの俺がラップをやってきて、それで作ったものがプロレスファンに届いてるっていうのはすごいことだなって。『フリースタイルダンジョン』を見てる子だけじゃなくてプロレスファンの若い子に届いてるのが嬉しいんですよ。


ーー『フリースタイルダンジョン』によってラップというジャンル、出演しているラッパーへの注目度は急激に上がりましたけど、上野さん的には「ブームをどう受け止めるか」っていう意味でもプロレスファンとして経験値があったのかなと思うんですよ。


上野 ありますね、やっぱり。「人気が出るってこういうことなのか」みたいな。前にオカダ(・カズチカ)選手とトークショーをやった時も、客席に女の人しかいなくて。プロレスに関して「俺いま結構いいこと言ったな」と思っても反応なかったりとか(笑)。


ーーまあオカダ選手しか見てないですよね(笑)。逆に古参ファンが新規を排除しないのも大事でしょうし。


上野 そこはね、嫌な言葉で言うと「老害」にならないようにしたいなと思いますね。でも今のファンに「もうちょっと昔のことを知っててくれよ」って思うこともありますよ。今の自分のアー写で、葛西(純)さんの一番最初の「サル・ザ・マン」Tシャツを着てるんですけど、それを指摘してきたファンはいなかったですから。葛西さん本人だけですよ、喜んでくれたの。


あと会場で握手を求められたりするのは嬉しいんですけど、「いつ頃から来てるんすか?」とか言われるとガックリするし、「何年選手だと思ってんだ?蹴り殺すぞ、コラァ!」(シュッシュッ)って言いたくなりますね(笑)。


ーー「お前より前からだよ!」って(笑)。


上野 年季入ってるんで。「お前は川崎市体育館の寒さを知ってんのか?」、「IWA JAPANのガラスデスマッチを知ってんのか?」と(笑)。


ーー「マムシデスマッチ」を知ってるかと。


上野 会場の流山が遠くて挫折しましたよ、マムシデスマッチ! まあでもそれをね、ことさらに言わないようにはしてます、普段は。イヤなおっさんになっちゃうし。厳しく言う時は言いますけど。


ーーさっきの「新弟子が作った曲かと思った」っていう話にも通じるかと思うんですが、上野さんにとっての物事の魅力には下積み感が大きく関わってますよね。上野さんのリリックに出てくる言葉で言うと「泥水」すすってきたかどうか。


上野 そこを通ってきてるかどうかは大きいっすね。たとえばプロレスの新弟子って、柔道とかレスリングで実績があっても、学生プロレスやっててプロレスのテクニックを知ってても、一律で「新弟子」じゃないですか。


ーー過去が一切まっさらになって。


上野 そうやって出直してきてるんですよね。


ーーインディーの選手が地方巡業で、とてつもない田舎でめちゃくちゃ少ないお客さんの前で試合してきたっていう話とかもいいんですよね。


上野 記録にも残ってないような試合もあったと思うんですよ。でも体を張る、腐らずにやるっていう。そこで「流す」試合をしてたら出世できないわけで。そういうところにシンパシーを感じますね。


ーーそれこそラッパーも小さいハコで、誰も見てないみたいなところでやる経験があってこそっていう。


上野 昔のグループ時代は3MC対お客二人とかザラでしたよ!その二人なんだったんだよ(笑)それでも自分の体と技と、プラス言葉で盛り上げるわけじゃないですか、インディーのレスラーは。そこがカッコいいですよね。ダメなレスラーも山程見てますが…


ーーこの連載では、そういう泥水すすってきた人ならではのコクみたいなものも語ってもらえればと思います。


上野 いいですね、コクは大事ですね。またインディーってお客さんにもコクのある人がいますから。


ーー「W★ING後楽園のバルコニーでよく見たあの人」とか、そういう話もいいですね。


上野 「あいつまた来てんな」っていうところで仲間意識が生まれたりもしますからね。話とかしないけど電波は飛ばしあって。あくまでファン目線の連載にしたいっすね。

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