「リングで試合をするだけがプロレスではない」スタッフと選手が流血デスマッチ! DDT映像班主催興行「ベータマニア」のメッセージとは?

(選手とスタッフ。立場を超えて流血戦を展開したYUTA(左)とイサミ)


4月23日、新木場1st RINGで「ベータマニア」と題した大会が開催された。これはDDTの大会だがDDT本隊でも系列ブランドでもなく、映像班の主催興行だ。開催を命じたのは“大社長”高木三四郎。目的は男色ディーノやマッスル坂井(スーパー・ササダンゴ・マシン)に続く新世代のクリエイター育成である。もしくは、会場を押さえたものの自分が忙しすぎて映像班に丸投げした可能性もある。


DDT社内には、中継や見どころ紹介映像(煽りV)などを制作する映像スタッフが存在する。現在の映像班はDT-YUTAと今成夢人。2人とも学生プロレス経験者であり、YUTAはかつてユニオンプロレスに所属。今成は数年前からガンバレ☆プロレスに選手として参戦している。


だから彼らが主催興行で試合をしてもおかしくはないのだが、とはいえ彼らは基本的に「スタッフさん」だ。しかも第1試合には元映像班、今は別の会社で働く福田亮平が登場し、DDTの石井慧介と対戦した。福田はもはやスタッフさんどころか「一般の方」なのだが、今でも映像班の仕事を手伝う時があり、ここは欠かせないメンバーと言っていい。


福田はプロレス界から離れながらもプロレスを愛する気持ち、DDT所属時代に仲がよかった石井への思い、クリエイターとしての情熱を煽りVと試合に叩きつけた。もちろん石井の相手になるわけがないのだが、セコンドについた映像班OB勢、さらにはプロレス格闘技専門チャンネル・サムライのスタッフまで加勢して善戦。最後はプロが全力で放つチョップを受けて見事に玉砕した。


映像作家として自主制作作品が高く評価されてもいる今成は、ゲーム「メタルギアソリッド」をモチーフに映像で下される指令(チュートリアル)と試合をリンクさせる、今成ならではの世界観を構築してみせた。


今成が対戦したのは「ディープ・スロートwithゲノム兵A&ゲノム兵B」。試合には敗れた今成だがレスラーとしての記憶を保存したUSBは奪還。そこには少年時代に三沢光晴、小橋建太と撮った記念写真が入っていた。“企画モノ”の試合のようでいて、最後は子供の頃からのプロレスファンとしての心情がクローズアップされる感動……と思いきや今成はリング上で木村カエラの「リルラ リルハ」を熱唱して謎&怒涛の大団円に。


さらにKUDOvs726のシングルから、メインではDT-YUTAが「X」として伏せられていた相手と対戦。それはユニオンプロレス卒業マッチで闘った木高イサミだった。


現在、イサミはDDTグループのブランド、プロレスリングBASARAの代表にしてエース。YUTAはそれを撮影し、盛り上げる映像班である。プロレスへの関わり方は変わったが目的は同じだとも言える2人は、YUTAの希望によりデスマッチルールで対戦した。イス、一斗缶、巨大ハシゴ、さらにYUTAは自分の「武器」であるビデオカメラに有刺鉄線、三脚に蛍光灯を括りつけてリングに持ち込む。YUTA曰く「カメラは人を傷つけるんだよ!」。


単に“ユニオンプロレス同窓会”“あの日の続き”ではなく、プロレスをやめてからの人生をリングにぶつけた。つまり今のYUTAにしかできない試合である。そんなYUTAにイサミも手加減は一切なし。両者大流血の闘いを終わらせたのは、イサミが放ったラダー上から一斗缶ごとヒザを落とすギガラダーブレイク(ダイビング・ダブルニードロップ)。イサミにとっては最上級の必殺技と言っていい。


大会のエンディングでは、中継を担当していたカメラマン、映像・音響担当スタッフたちが次々に体調不良で倒れる異常事態。そこでYUTA、今成、福田は各自、本来の持ち場について(YUTAにいたっては流血したまま)中継を続行。リングは無人の状態で大会を締めることに。

(一斗缶、蛍光灯の破片が散らばるリングで大会を締めようとした今成(左)、福田、YUTAだったが…)


しかしこれも、映像班興行ならではのメッセージ。音響ブースから、今はDDTの社員ではない福田が叫んだ。


「リングに誰もいなくても、僕たちはリングの外でプロレスやってるから。みんなだってそうでしょ。それぞれの人生でプロレスやってるんだよ!」


プロレスラーは、プロレスが好きでたまらない我々の代表、あるいは代理として試合をしてくれていると考えることもできる。この日のYUTA、今成、福田は、その意味合いを強調するような存在だった。


そして最後には、リングで試合をするだけがプロレスではないのだと訴えかけた。映像スタッフも観客もプロレスが好きで、それぞれの職場、あるいは人生というリングで闘っているのだ。

(今成は「須山大佐」の映像での指示により段ボールに隠れて敵をやりすごすなど、予想外の展開で観客を圧倒)


「僕たちはマッスル坂井や男色ディーノにはなれない。でも僕たちにしかできないこともあると思う」と大会後のYUTA。プロレスを愛する者全員に、その人にしかできないプロレスとの関わり方がある。リングで試合をした彼らは“本職”のプロレスラーではないが、しかし彼らにしか見せられないプロレスは確かにあった。


文・橋本宗洋


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