“女子アナレスラー”滝川あずさ、1vs16変則マッチで涙の引退 最後は自らマイクで「ギブアップ」

10月27日の東京女子プロレス・新木場1st RING大会はいつものように超満員となった。しかも通常の興行よりも客席を増やした上での超満員だ。

(引退挨拶でも東京女子の素晴らしさを語り、選手たちとファンに団体を託してリングを降りた滝川)

(C)DDTプロレスリング


この大会の“主役”は滝川あずさ。白百合女子大出身でミスキャンパスに輝き、アイドルやチアパフォーマーの経験も。その後アナウンサーを目指す中、リングアナ、実況アナになれないかと問い合わせた東京女子プロレスで、なぜか選手としてデビューすることになった。


長い練習生期間を経てリングに立ったのが3年前。レスラーとしても「ナンバーワンアナウンサー」というキャラクターで、試合中に自分やタッグパートナーの闘いぶりを実況してむやみに試合をかき乱すのも“得意技”だ。


“Kカップレスラー”のの子とは「婚勝軍」を結成。婚活のパワーでプロレスにも勝とうというコンセプトのもと、分厚く重たい結婚情報誌ゼクシィを凶器に使う画期的なファイトスタイルを確立してみせた。編集部からクレームがついての「号泣会見」など、そのバカバカしい楽しさやデタラメさの瞬快最大風速はマット界でもトップだったのではないか。


さらに沙希様のNEO美威獅鬼軍に引き入れられると、アズサ・クリスティのリングネームに。どこまでもキャラクター先行に見えたあずさのレスラー人生だったが、蓄えた実力はこの「アズクリ」期に開花した。沙希様をアシストするだけでなく自らフィニッシュを決めることも多く、今年に入るとタッグタイトルも獲得している。


ただ選手生活が充実すればするほど、彼女の潔癖さや責任感も増してきたようだ。沙希様のもとを離れ、「滝川」に戻って再出発を果たした矢先、団体卒業・プロレス引退を発表する。


20代後半でレスラーになり、東京女子プロレスで「神様がくれた2度目の青春」を過ごしてきたというあずさ。しかし青春にはいつか終わりが来る、「ゴールは自分で決めなければ」と考えるようになったそうだ。


今いる環境の心地よさに甘えていては成長できない。そういう厳しいスタンスで自分に向き合う人間だから、同僚のレスラーからも東京女子のファンからも愛されたのだろう。いや愛されたというだけでなく信頼されたと言えばいいだろうか。


あずさは東京女子プロレスでの「2推し」、つまり2番目に好きというファンが多かったと聞く。他の選手、つまり各々の「イチ推し」レスラーに比べ、あずさは大人だし落ち着いている。リングの外は若い選手を叱ったり注意する立場だ。心配されないタイプ、応援しなくても大丈夫だと思われがちなタイプなのだと思う。そうなるとアイドル的な人気は出にくい。


けれど引退するとなったら超満員どころか増席だ。普段以上に多くのファンが、あずさを見送るために集まった。実はないことを気にしていたという応援バナー(横断幕)も、ファンが引退試合用に作ってくれた。卒業記念写真集が発売され、AbemaTVやプロレス・格闘技専門チャンネル「サムライ」の番組でゲストMCを務めもした。地下アイドル時代には観客が2人だったこともあるのに、プロレスを頑張っていたらどんどん夢が実現していった。


卒業・引退後も引き続きアナウンサーを目指すし、結婚してママタレになってアメブロランキング入りも狙いたいとあずさは言う。レスラーとしての“キャラ”の延長線上の発言のようでいて、でも彼女はプロレスの世界で「なんでも口に出して、一歩踏み出せばできないことはない」ということを学んでいる。


卒業記念試合は、超変則形式で行なわれた。1vs16。あずさと所属&レギュラー選手全員が闘う3本選手マッチだ。当然ながらあずさに勝ち目はないけれど、そういう問題ではなかった。


全員が立て続けにボディスラムで投げる。惜別のトレイン攻撃(コーナーでの連続串刺し攻撃)には欠場中の辰巳リカ、小橋マリカ、東京女子卒業生のミウラアカネも加わった。甲田哲也代表も無理やり引きずり込まれたが、そこはキッチリあずさがカウンターを叩き込んだ。


闘いながら泣いてしまう選手もいる中、一本目は中島翔子が3カウントを奪い、2本目には「緊急来日」した沙希様が登場して抱きしめるようにフォールした。そして最後の3本目。あずさのデビュー戦の相手でプライベートでも仲のいい山下実優が必殺技クラッシュ・ラビットヒートを決める。が、フォールできない。ここで抑え込んだら試合が終わってしまう、別れの時が来てしまうから動けない。

(必殺技を決めてもフォールできない山下を見て、滝川は自ら「ギブアップ」)

(C)DDTプロレスリング


そんな山下を見て、あずさは本部席にマイクを要求した。得意とする試合中実況だ。いつもと違ったのは、涙声だったこと。


「滝川あずさ、最後のニュースをお伝えします。プロレスラー人生に悔いなし。私のプロレスラー人生を、これからの東京女子プロレスのみんなに捧げます……ギブアップ」


誰かにトドメを刺されるのではなく自分の意志で、自分の声で、滝川あずさはレスラー人生を終わらせた。彼女の得意技の一つに「偽実況」がある。逆エビ固めに捕えられた時など、相手に見えないのをいいことにマイクを握り、ロープエスケープの光景を偽実況して技を解かせるというもの。滝川あずさという、虚実入り混じった選手ならではの、まあ言ってしまえば“ネタ”だ。


だけど今回は偽実況じゃなかった。嘘でピンチを逃れるのではなく、本当の気持ちを言って試合を、現役生活を終わらせた。虚実入り混じったレスラーが、リングを降りるにあたって“実”を提示したのだ。こんな鮮やかな引退、めったに見られるもんじゃない。

(レスラーとしての最後の日、滝川は全員と闘い、全員と記念撮影し、全員と抱き合った)

(C)DDTプロレスリング


最後のあいさつで、あずさは「東京女子のみんなは心がきれいすぎて、社会に揉まれてきた私の気持ちが汚く感じたことがありました。でもみんなと一緒にいたら私の心も透明になる気がして」と語った。「そんな東京女子を、これからもよろしくお願いします」とも。


インタビュースペースでは「私が(引退後の)道をきちんと作ることができれば、みんなも思いっきりプロレスができるし卒業する時も気持ちよくできると思います」と、ここでもやはり残った選手たちのことを思いやった。

(卒業記念写真集「ラストニュース」も発売。記念イベントも開催された。最後になって潜在的人気が爆発した感がある)


レスラーとしてのキャリアはたった3年。短くともやり切って、出し尽くして、彼女はまた別の人生を歩み始めることになった。心が汚れそうだと感じた時には、東京女子プロレスの選手たちと、2018年10月27日に自分に向けて投げ込まれた大量の紙テープ、その輝くような純白を思い出せるだろう。


文・橋本宗洋

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