山下実優、札止めの後楽園で貫禄V7 敗れた伊藤麻希は号泣「私は弱いけど絶対にチャンピオンになる!」

 (粘る伊藤を倒し切ったクラッシュ・ラビットヒート2連発)


 東京女子プロレス恒例である「イッテンヨン」、1月4日の後楽園ホール大会は、4回目で初めて超満員札止め(観衆1381人)となった。普段の興行でも満員、超満員が続いており、旗揚げ6年目の団体はますます勢いづいている。


 その頂点、TOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座を保持する山下実優は、この日7度目の防衛戦で“クビドル”伊藤麻希を下している。最多防衛記録はすでに更新しており、充実した闘いぶりはエースにふさわしいものだ。


 挑戦者・伊藤は持っている力を最大限に発揮したと言っていいだろう。頭突き、DDT、逆エビ固めにダイビング・ヘッドバット。試合中に号泣しはじめるほどの激情ぶりも凄まじかった。勝った山下も、試合後に「予想以上の以上でしたね。伊藤相手に強かったっていうのも悔しいですけど、強かったです」と語っている。


 しかし、挑戦者の最大級の頑張りを受けて立ち、それでもベルトを譲らないのが王者の底力だ。得意の蹴りを要所で放って形勢逆転、ギリギリのところで伊藤のペースを寸断していった山下。容赦なく顔面を蹴り、最後は必殺技クラッシュ・ラビットヒート(ランニングキック)を横と正面からと2連発で叩き込んだ。

(敗れた伊藤はこの表情。山下の「(悔しがる)その顔、かわいいよ」は、伊藤が前哨戦で使った言葉をそのまま返したもの)


 この力の差が、今の“現実”というしかない。常に感情むき出しで観客の支持を得てきた伊藤だが、山下には山下で“強者の歴史”がある。伊藤は、それを脅かすことができなかった。タイトルマッチで観客から時おり感じられる「今日は〇〇(挑戦者)が勝たなきゃ嘘だろ」という独特の追い風も吹かなかった。


 東京女子プロレスは新人だけで始まった団体で、初期メンバーは“お手本”のない状態で試行錯誤しながらキャリアを重ねてきた。その中で格闘技の経験があった山下は初期からエース候補と目されており、旗揚げ戦でもメインイベントで勝利している。


 “弱い自分”もさらけ出し、泣いて叫んで成長してきたのが伊藤なら、山下は“強くあり続ける”という困難に向き合ってきたのだ。そういう2人が闘えば、やはり差は出てしまう。少なくともタイトルマッチでは。


 初代王者だった山下は一度ベルトを手放し、取り戻すことで貫録や懐の深さを得たように見える。チャンピオンでありながら「ベルトを持ってるけど私の時代ってわけじゃない」、「東京女子はナンバーワンじゃなくオンリーワン。(選手は)みなさん一人一人にとっての一番であればいい」と言えるのは、エースとしての器の大きさだろう。

(敗戦の翌日には第1試合で勝利。これが「伊藤スペシャル」だ)

 

 敗れた伊藤は、そんな山下に中指を立てて退場。インタビュースペースでは号泣しながら「私は弱いけど絶対にチャンピオンになれる! 絶対あきらめない!」と叫んだ。そしてすぐさま立ち直り、翌1月5日の北沢タウンホール大会ではアップアップガールズ(プロレス)のらくにテキサスクローバーホールドで快勝している。


 試合後には取材陣(と報道を見るファン)に向け「昨日は後楽園のメインで死ぬほどしょっぱい試合をして本当に申し訳ございませんでした」と笑顔で謝罪。伊藤曰く「(会場が)あそこまでシーンとするとは思ってなくて。いや笑いごとじゃないんですけど」。ちなみにらく戦で見せたフィニッシュは抱え込み式逆エビ固めの改良型で、道場で考案した「伊藤スペシャル」とのこと。テキサスクローバーホールドとは指の角度が違うとでも言いたげな伊藤であった。


 ナンバーワンもオンリーワンも目指すのだという伊藤のテーマは、他の誰とも似ていない選手として、どこまでも伊藤麻希らしくあることだ。ただ、その伊藤らしさを、これまでのような“負けてもインパクトを残す伊藤”ではなく“ベルトに絡んでいくトップ選手としての伊藤”として出していく必要がある。求められるものが違ってくる中で、それでも変わらない“伊藤らしさ”とは何か。それを見つけなくてはいけないだろう。


 変な表現だが、山下戦での伊藤は「トップファイターとしては新人」であった。キャリア3年目が始まったばかり。実力も“らしさ”も、まだ固まる必要はない。大事なのは次に挑戦する時、どんな姿を見せるかだ。

文・橋本宗洋


▶”TOKYOプリンセス・オブ・プリンセス選手権試合”山下実優 vs 伊藤麻希

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