“11年越しの更生”は実現なるか? 平成プロレス最後のバイプレーヤー、反則三昧の飯塚高史は「なぜ、ファンに愛される」のか

 2019年新春の新日本プロレスは、ジェイ・ホワイトと棚橋弘至とのIWGPを巡る争いと、内藤哲也とタイチとの抗争から発展したロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンと鈴木軍のユニット間闘争という2軸を中心に展開されていたが、それとは全く違った世界観でオールドファンを中心に見守ることになったのが、鈴木軍擁する「怨念坊主」こと飯塚高史の引退を巡る人間模様だ。


 1.4東京ドームから2夜空けて会見で発表された、唐突すぎる飯塚高史の引退。近年のファンの目から見た飯塚といえば、会場を徘徊しながらリングに向かう姿と噛みつき、鋼の凶器・アイアン・フィンガー・フロム・ヘルを装着する凶器攻撃など、ワンパターンを貫くバイプレーヤー的な悪役レスラーというイメージだろう。


 そんな彼が2月21日後楽園大会をもって32年のプロレス人生に幕を閉じるというものだが、多くのプロレスファンがその報道にザワつき、リタイアを惜しむ声がネット上でも多く見られた。比較的辛辣な言葉が多いニュースサイトのコメント欄にも「52歳にして鍛えられた肉体は真面目な人間性の賜物」「ブリザード・スープレックスや魔性のスリーパーをもう一度」といったエールに加え、ヒールレスラーにとっては営業妨害にもなりかねない温かい言葉が並んだ。


 デビュー当時ベビーフェイスとして端正なルックスで人気を博した飯塚孝之(旧リングネームで本名)は、強い中堅レスラーの象徴でもあった。異種格闘技戦の特攻隊員としての抜擢、新日本プロレス道場最強説を誇る技巧派として、総合格闘技とプロレスが入り乱れる混乱期に、場外戦で村上和成をスリーパーで瞬殺「魔性のスリーパー」した出来事は、寡黙で怖いイメージにひと役買ったといえる。


 かと思えば、80年代後半にサンボ修行やグランドでのレスリング技術が評価され道場で名コーチとして名を馳せた時期もある。総合格闘技というフォーマットがもう少し早く確立されていれば飯塚の選手人生はまた違う景色を見せていたかもしれない。


 その一方でプロレスラーとしての人生もまた波乱に富んだものといえるだろう。現在のヒールの形態に姿を変えたのも、あまりにも唐突。新日本プロレスの長い歴史でも、ここまで客も選手も欺いた裏切り劇はない。それはベビーフェイスとして、再ブレイク中の最中の出来事だった。全盛を誇ったヒールユニットG・B・Hを追われた天山広吉に飯塚が手を差し伸べ結成した「友情タッグ」は、お互いを救い合う青臭い程のパートナーシップで当時ファンの心を掴んでいた。


 急転直下は僅か1カ月半後、2008年4月27日大阪大会。G・B・H・真壁刀義&矢野通組VS飯塚・天山組の試合中に、飯塚は天山へ突然「魔性のスリーパー」をかけヒールに転向。その後CHAOS〜鈴木軍とヒールユニットを渡り歩くことになるが、引退発表以降「真面目な飯塚高史」を蘇らせるべく手を差し伸べている天山広吉との一連の「劇場」は、11年前の飯塚のヒールターンから続く物語の回収だ。


 以前飯塚は「昔の飯塚高史は等々力渓谷の祠(ほこら)に封印した」と発言したことがある。SNS上ではタイチとエル・デスペラードが、連日等々力渓谷を訪れ飯塚の「善人のココロ」探しに奔走している天山を「ヤバいな もう日がない まじで探し出して先に葬らないと……」と含みを持たせつつ牽制しているが、封印が解かれたときに何が起こるか、リング外でこの話題はクライマックスに向け日増しに熱をおびている。

 

 飯塚高史ラストファイトは、2月21日後楽園大会だ。「NEW JAPAN ROAD ~飯塚高史引退記念大会」と命名されている通り、イケメンの技巧派時代から制御不能のヒール時代まで、32年新日本プロレス一筋のプロレスラー人生へのせめてもの労いも込めた鎮魂祭とも取れるが、組まれたカードは興味深い。


 天山広吉、矢野通、オカダ・カズチカ組 VSタイチ、鈴木みのる、飯塚高史組。かつての盟友・天山以外にも「クレイジー一族」として共に一斉を風靡した矢野通、オカダ・カズチカはCHAOS時代を共にした仲間。一方タッグを組む鈴木みのるは、現在所属する鈴木軍のボス以外にも、鈴木のパンクラス時代、そして東京ドームでのシングル戦などで戦い、しのぎを削った仲でもある。キャリア最後の試合は善も悪も超越した飯塚高史のプロレスキャリアを振り返る面々で溢れかえっているのだ。


 天山の動向をSNSで追いつつ「もしかしたら……」と最後に真面目な姿で10カウントを迎える飯塚選手を期待する人もいるだろう、一方で狂乱のアイアンフィンガーで反則負けのゴングを聞きながらのエンディングも「飯塚さんらしい」という声も少なくない。どちらに転んでもファンに惜しまれつつハッピーエンドという稀有なヒールの勇姿もまもなく見納めとなる。

(C)AbemaTV


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